入社10年、久保さんが学んだこと
グループホームのサービス管理責任者として活躍している久保さんのお話です。
久保さんは、なんと新卒から入社して今年で入社10年目に突入!
入所施設からはじまり、短期入所事業担当を経て、現在はグループホームで管理職。順調にキャリアを構築していきました。
素朴な疑問ですが、障がい者施設でキャリア構築=どんどん障がいの段階が上がり、大変さが増すのでは。どうやって乗り越えるのか、気になります。特に入所支援施設は大変だと耳にします…..。そんな話を、理事長の隆生さんと久保さんの対談をお届けします。
久保さん「大変は大変でしたよ。短期入所事業は精神科病院へ入院する一歩手前くらいの方も多いので、物を次々と破壊する方がいたり自傷・他害の粗暴行為をする方がいたり、激しい出来事は多いですね。なぜか朝起きたら床がテカテカになっていて、聞くとラッカスプレーを1本丸々床に吹きかけていた、みたいな謎行動もありました(笑)。」
隆生さん「しんどくなかったの?」
久保さん「おもしろかったです。入所施設は長年そこにいる人が大半だから穏やかに時間が流れるのに対して、短期入所事業は日々が変化の連続だったので。外部と繋がることも増えて情報が入ってくるし、入所施設の利用者にもこういうことができるなという気付きにも繋がりました。学びが多い場所だったので、どれだけ困難事例がこようとも頑張れましたね。チームが良かったからがんばれたというのは大きいですが」
キャリアを積んだ今、大切に思うこと
10年間支援の仕事を経験した久保さんが今、大切にしていることを伺ってみると、部下の外出起案を通すとき、必ず伝えていることがあるといいます。
久保さん「最低限、命を守ってくれればいいからと毎回必ず伝えています。僕たちが支援をしすぎることで、結果的にその人の人生を奪ってしまうことがあるからです。できるのにできない環境を作っているのは本人ではなく支援者だったり社会、環境にあることが多いと思っていて。」
「たとえば足が弱いけど、本人がどうしても『100m走りたい』と言っている。僕たちからすると転んで怪我をする想像ができてしまうから、走らせない方が安全だし楽です。だけどちゃんとフォローしつつ、少し怪我をしてでもやらせてあげたいんです」
なんでもやってあげた方が楽だし、早い。だけど怪我しないため、安全でいるためを重視してなんでもやってあげることで、失敗が許されなくなる人生になってしまう。それって確かに、「人生を奪ってしまう」ことになるのかもしれません。
そして久保さんは、仕事を通して日々そんなことを考えているため、私生活にも通ずる学びがあるそうで。
「もうすぐ2歳になる子どもがいるんですけどね」
「娘のイヤイヤ期に一生付き合えるんですよ」
久保さんは現在絶賛イヤイヤ期の娘さんを目の当たりにし、障がい者支援の仕事に多くリンクすることに気が付いたのだそう。
「基本的に仕事で接するのは知的障がいのある人たち。脳の発達がゆっくりだったり、あるところで止まってしまっている人ですね。だから身体的には大人なんだけど、精神年齢は2歳の子どもと同じくらいの人も多いんですよ。そんな人たちと日々接しているとね、分かってくるんです」
「今、娘は何をするのも嫌がったり、ごはんを食べてくれなかったりします。そこに理由はあったりなかったりする。本人が意図していないイヤイヤもある。なんとなくとか、意地になってるだけとか(笑)。その様子を見て妻はイライラするんですけど、僕は支援で培った耐性があるので一生付き合っていられるんです。」
「仕事が子育てに通ずるところはかなり多くあります。空気を読んだり我慢ができる大人と違って、子どもは一筋縄ではいかない。シンプルなやりとりで問題がクリアになるわけじゃないんです。いろんなアプローチをすることでやっと、本人は心を開ける状態になる。ここでの学びは仕事の範疇におさまらず、人生に活きているなと感じますね。」
隆生さん「障がいを持っていなくても2歳ぐらいののイヤイヤするおっさんだっているしね。そっちの方が大変。」
起業をするより学びが多いと感じた10年
隆生さん「そういえば入社するとき、5年後に起業しますって言ってたよね。もう10年経ったね(笑)。」
久保さん「えっ、もうそんな経ちました?(笑)」
隆生さん「起業はどうなったの?」
久保さん「最初は自分がやりたいことをやりたい、挑戦もしながらお金も稼ぎたいから、5年働いたら起業するぞと決めていました。けど海邦福祉会で働いていたら、思ったよりも何でもやらせてもらえるな!と思って。むしろ海邦福祉会の看板があるぶん、自分ひとりでやるよりも挑戦できる幅が大きくて、楽しいです。もっと学びたいですね。ここでやりたいことがたくさんある。だからまだやめません(笑)」
誰の人生とも隣り合わせの障がい者支援で得られること
支援者としての学びしかり、久保さんがこの仕事をやっててよかったと思うのは「人生に必要なことが学べる」こと。
久保さん「介護や育児と違って、障がい者支援は一生、どのタイミングでも自分が関わる可能性があります。生まれてきた子どもが先天的に障がいを持っているかもしれないし、自分や家族が後天的に障がいを有する場合もある。誰の人生とも隣り合わせなんですよ。それに僕みたいなぺーぺーが70、80歳の人に説教する必要もある。そこには信頼が必要だし、信頼されるためには年齢や立場で判断せず、『人』として向き合う必要がある。そこで学ぶことのひとつひとつには、総じて人生に必要なことがたくさん詰まってると思うんですよ」
久保さんの取材を通して、言葉の選び方がとても丁寧な方という印象を強く受けました。ひとつひとつの言葉を丁寧に、慎重に考えながら紡いでいるのだなと。目の前の人をしっかりと観察し、伝え方を模索し、言葉をさぐる。それを繰り返す。そんな日々の積み重ねのたまものなのでしょう。じっくりと磨き上げられたスキルの重みが、久保さんのいう「人生が詰まっている」という言葉とリンクしました
最初は久保さんのことを「若い管理職」という視点で取材できればと思っていましたが、とんでもない!年齢は関係ありませんでした。海邦福祉会は、若いから、若くないから、ではなくて、経験を自分のものにし、力にできる方が管理職になる会社なんだなと感じました。これまでのお話聞いてたらそうだよねと納得。年齢じゃないです。