「大事なのは自分ゴトにすることなのよ、全て。利用者のために何が必要か、まず目の前にある出来事を自分の課題として捉える。そうやって一度枠が外れるとやってみたいことがどんどん出てくる。これが”自分ゴト”ってことなんだよね。」
知識や技術を身につける。それと同じくらい大切なことは『自分だったらどうする?』と自分自身で考え実行してみること。
福祉でこんなことをしてみたい!と熱い思いを持った方におすすめの職場を紹介します。
訪れたのは沖縄県中部に位置する読谷村。
さとうきび畑の中、海の方へと車を走らせます。目の前に広がる水平線に目を奪われながら到着しました。今回お話を伺う社会福祉法人 海邦福祉会です。
読谷村高志保に位置するこちらの施設では、施設入所支援、生活介護、短期入所、就労継続支援等を行っています。他にも共同生活援助や移動支援、放課後デイサービスも実施しており事業所は全部で8箇所。
ちょうど利用者の方々が庭で野外活動をしているところでした。
「大丈夫ー?迷わんかったね?」
明るい声で迎えてくれたのは施設長の知念隆生(ちねんたかお)さんです。
「ちょっと待ってよ!今準備するからさ。」と初対面でも気さくに話しかけてくれます。
障害者支援施設の施設長というと、おっとりとやわらかい雰囲気の方が多いのかと勝手にイメージしていたのですが、お会いした瞬間から知念さんのパワーとテンポの良さに惹きつけられます。
実は他の事業所から”イケイケ”だと評される海邦福祉会。
その理由を聞いてみました。
「スタッフが比較的若いからじゃないかな。管理者はみんな30代だし、物事を進めるのがめっちゃ速いよ。こんなのやろうよって言ったら、じゃどうやって実現する?という考え方にすぐシフトできる。」
進みすぎて時々分からなくなるけどね、と冗談まじりに話します。
「福祉業界って若い人が意見を出しても実現できないことが多いと思う。”以前やったんだけどうまくいかなかったんだよね”って。リスクを盾にして、”でも・だけど・しかし”で話されてしまう。」
知念さんが働き始めた頃、そういった経験が多かったそうです。障害のある方を支援するときに大事なのは安心・安全を守るということ。しかしそこにこだわりすぎるとやりたいことが何もできなくなってしまうと言います。だからこそ知念さんは職員がそれぞれ抱いている”想い”を大事にしています。
「発想は全部吸い上げるよ。」
一つのエピソードを話してくれました。
ある職員が「入所施設の家庭訪問をしたい」と提案を出しました。『利用者の育ってきた環境を知らないまま、利用者のことを理解することは難しい。本当に必要な支援も見えてこないのではないか。』一年に一度、ご家族を訪れて利用者の生い立ちを伺う機会を作りたいと思ったのです。
家庭訪問をするというだけで驚きです。
「でもうちは県外から来ている利用者もいるんだよ。」
海邦福祉会には沖縄本島だけではなく、都市部で受け入れられなかった県外からの利用者、また離島出身の利用者もいます。話し合ったスタッフたちは「県外にも行きたい。」と知念さんに相談をしに来たそうです。予算を気にして遠慮がちにやってきたスタッフに対し知念さんは「行くべきだよね、いいよ。」とGOサインを出しました。
「大事なのは自分ゴトにすることなのよ、全て。利用者のために何が必要か、まず目の前にある出来事を自分の課題として捉える。そうやって一度枠が外れるとやってみたいことがどんどん出てくる。これが”自分ゴト”ってことなんだよね。」
「必要だと思ったことはやっていきたいから、そういう想いはどんどん出してほしい。こんなことしたら絶対いいよねっていう妄想から始まってもいいわけよ。妄想や想いだけで留めるんじゃなくて行動に移せる組織だから。」
もちろん提案したこと全部を実行できる、というわけではないかもしれません。でもまずは職員の気持ちや言葉に耳を傾け実現できる形へと導く。そうすることで利用者に喜んでもらえる支援と職員自身の成長へと繋げていきます。
他に話を聞くなら女性管理者と一番の妄想家がいいはず、とスタッフの方を紹介してくれました。
まず登場したのが久保亜樹人(くぼあきと)さん。「福祉は妄想だ!」をキャッチフレーズとしている久保さん。知念さんからは妄想支援員と呼ばれています。
久保さんが”自分ゴト”として取り組んできたことはありますか?
「ずっとやっていることは利用者が外に出られる機会を作ることです。」
入所施設で働く久保さん。実は久保さんも家庭訪問へ行ったスタッフの一人でした。
「久米島の方がいて一緒に飛行機に乗って行ったんですよ。その利用者さん、昔はよく船で帰っていた方で、僕と一緒に帰ったときも自分の家の道順を覚えていて道案内してくれたんですよ。」
その姿を見て施設の外へ出ないと見つけられない一面があると気づいたそうです。この経験をきっかけに担当する利用者には定期的な外出活動を取り入れることにしました。
「自分も日課活動ばかりでは楽しくなくて。でもそのときは日課を発展させるスキルもなかったので出来ることからやろうと思ったんです。」
入所施設にいる利用者は、地域で暮らせない、外に出られないから入所しているんだと思いがちです。しかし久保さんはその考えに捉われず「どうしたら楽しいかな?」と考え、家庭訪問以外にも外出の機会を積極的に設けたそうです。そしてその魅力や経験を伝え続け、今では自身だけではなく後輩や周りのスタッフと共に団体での外出を実現しました。
「個々の力よりチームで動くことの方が大事だなと思ったので。5年目で中堅になってきていますけど、入った頃よりみんなで動けていると感じています。」
チームを大切にしている久保さんは8つの事業所の平成生まれを集め『Hey!Say!会』を結成しました。仕事を忘れて遊んだり語ったりして一緒にいる時間を楽しんでいるそうです。共有の場を作り、支えあうことでチーム力を高め、利用者の素敵な支援へと広げていきます。
今度はチームをまとめる立場にある方にお話を伺いました。通所施設の管理者の一人、富村育子(とみむらいくこ)さんです。
スタッフをまとめる立場ということで意識していることはありますか?
「管理者に言われたからやる、しなければいけない、というのではなく職員が自発的に動いて楽しいと思えるような職場にしたいです。」
「そのためには職員自身楽しむことが大事なんです。自分だったら楽しいかな?というのを考えてみて、と伝えています。」
そのように意識を変えたことで新たに変わりつつあるイベントがあります。夏のBBQです。
今までのBBQは実施する内容や必要な準備が決まっており、ほとんどマニュアル化されていたそうです。楽しいから参加しているというより利用者も職員も義務的な参加になりつつあったと言います。そこで富村さんは「中身を自分たちで考えてください」と職員に投げかけます。
しばらくすると職員から新しい案が出てきました。
「育てた野菜を畑で食べよう!」というものです。
BBQというと海にある設備を借りてお肉や野菜を焼く…というイメージです。でもただ買い出しに行くだけでは楽しくない。BBQ当日だけでなくそれまでの過程も楽しめないかという発想から出てきた提案でした。それから野菜の栽培が始まりました。
利用者と職員が一緒になってナスを植え、ピーマンを植え、水をかけにいきます。
BBQ開催という見通しが立った日課活動に利用者も積極的に参加するようになってきました。
「職員が楽しいと利用者も楽しくなるんですよ。」
BBQだけではなく年間のイベントは各職員に担当してもらうそうです。職員それぞれの得意分野を活かした内容やこれまでにない発想が面白いと語ります。
「リスクマネジメントはしますけど、あとは基本的にみんなに任せて私は確認の印鑑を押すだけです。」
そう笑顔で話す富村さんからは職員への厚い信頼を感じました。
職員の”自分ゴト”から生まれてくる支援は利用者に心地よい支援と職員のやりがいをもたらします。それを体現しているかのように取材で出会った方々はみな素敵な笑顔とパワーに溢れていました。
当たり前を当たり前のままにせず一度枠を外れて考えてみる。支援者としても一人の人間としても成長できる場だと思います。
「これをやってみたいんです!」という熱い想いを持った方はぜひご応募ください。
あなたの想いを実行に移せる環境と素敵な先輩たちが待っています。