「沖縄で活躍する若者たちの育成に貢献したい。」
2018年6月上旬、私たちは海邦福祉会を取材するため、再び事務局を訪れました。今回伺ったのは今年度実施された採用活動についてインタビューをするため。毎年違った手法で採用を行う海邦福祉会ですが、2019年度新卒採用のために掲げたテーマは、前例のない斬新な内容でした。
それは、学生自身が入社の合否を決める『自己決定による採用』です。通常は応募してきた学生に対して会社側が採用・不採用を決定しますが、その合否判断を完全に学生へ委ねようというのです。
この手法をとった背景にはこれまでの経験がありました。
「今年の採用方法を決めるために管理者が集まった時、まず最初にこれまでの採用活動を振り返りました。自分たちが採用したスタッフは本当に素晴らしい職員として働いていると。でも一方で不採用にした学生のことも気になるよねという話が出たんです。自分たちの会社に入社せずとも他の場所で活躍している可能性は大いにあるはず。たった数時間の面接で理解できることは限られていて、その学生の良さは一緒に働いてみないとわからない。」
「また今回エントリーしてくれたのは、3月に行われたfukushi works okinawa主催の就職フェア、その後行った会社説明会に参加し、海邦福祉会のスタッフと接して、法人を観て、そして語った学生たち。とても意識が高いと思いましたし、数ある法人・事業所の中で、海邦福祉会にエントリーしている。」
それならば、「ここで働きたい!」と決意を持った人と働きたい。
そうしてたどり着いたのが『完全なる自己決定で入社を決めてもらうこと』でした。会社が合否を決めるのではなく、学生自身に“自分は合格かどうか”を記入してもらう。そして“合格”と書いた者に合格通知を送るというシンプルかつ新しい方法です。何度も話し合いを持ち、誤解や混乱を招かぬよう計画を練り直して、採用面接の日を迎えました。
当日の流れは前半・後半にわけた2部構成。まず前半は、海邦福祉会をより知ってもらうための質疑応答タイムです。
学生が職員へ質問をするのではなく、海邦福祉会の若手職員が管理者へ質問し、その様子を学生が周りから見学するという形をとりました。学生がいきなり初対面の職員へ質問をするのは難しいだろうし、会社側が一方的に説明しても実情というのは見えてこないだろうと考えたからです。また、入社数年の若手職員と社歴が長いベテランの管理者、その両方の発する言葉や会話の様子を見て、会社の風土を感じてほしいという目的もありました。若手職員の質問がひと通り終わったあと、学生たちによる質問タイムを設けて前半は終了です。
後半は学生たちの自己プレゼン。学生たちが一人ずつ感想や意気込みなどを発表します。
そしてプレゼンを終えた学生から順に別室へ移動し、施設長から一通の封筒を受けとります。そこからまた移動した個室の壁に、このような紙を貼りました。
これを見て初めて、学生たちは『自分が合否を決めなければいけない』ことを知ります。
「これまでは会社が合否を決めてきたんですよね。普通はそうなんです。でもそれって結局学生自身が入社を決めたわけではないんですよ。最終的には“会社にOKと言われたから入る”という状態なんです。最後の最後まで自分で決める、究極の自己決定って何だろう?と話し合った結果このような形になりました。」
実際にその張り紙を見た学生たちは、なかなか部屋から出てこなかったそうです。入社を希望して来たはずが自分で決定しなければならないとなると、すぐには答えを出せなくなってしまいます。
『採用か不採用かを自分で決める』。言葉にするとシンプルですが、ある意味合格をもらうために頑張っている就職活動の中、「入社の決断を自分で決めていい」と許されることは意外と苦しいことです。『あなたは本当にこの会社で働きたいですか?』そういう決意を確かめられているといっても過言ではありません。
なぜそこまで思い切ったことをしたのか聞いてみると「沖縄の人材を育てたいという観点で考えているから」という答えが返ってきました。
「今までは一箇所の事業所だけで働ける人材を育ててきました。それが海邦福祉会という法人全体で活躍できる人材に育てたいという考えに変わってきて。そこからさらに広がって、沖縄の若い子たちを育てたいという思いを持つようになりました。」
「学生たちがこれまで生きてきた中で、自分一人で決める局面ってそんなに多くなかったと思うんですよ。与えられてきたものに応えることの方が多かったと思います。でも今回のような状況に立たされると、学生たちはこれまでにないくらい頭をフル回転させて、自分の進路を本気で考えると思うんです。たとえ不採用に丸をつけてもいいんです。どちらにせよ、その場にいた学生は自分自身へ真剣に問いかけることができる。この経験が彼らの人生のターニングポイントになれたらいいなと思っています。」
面接が終わり、その翌日には採用に印をつけた学生には採用通知を、不採用に印をつけた学生には不採用通知を発送したそうです。
「社会人の第一歩目としてうちを選んでくれた今回の合格者に感謝したいです。自己決定で決めてもらったので、入社した後も自分で道を切り開いていくような風土づくりや育成をしていきたいと考えています。」
今回大変ユーモアな取り組みを伺うことができましたが、この方法を実現できたのは海邦福祉会だからこそだと感じました。どんな意見やアイディアも吸い上げ、たとえ前例になくても必要と判断したら実行する会社の方針と、『ここで働きたいと心から思ってくれる人を優先し、責任持って育てていく』という職員の決意が必要不可欠な要素だったのではないかと思います。
最後に「もう二度と同じ手は使えないですけどね」と笑いながら、また来年違う方法を使ってこれからも若者たちの育成に携わっていきたいと語ってくれました。